小説

小説「向こう側へ渡る、その境」第6回


第6回 1998年5月4日(月) 12時05分

ここまでの登場人物
西田 勝頼(にしだ かつより):
主人公。東証第二部上場工作機械メーカー法人営業第三部平社員。30歳、城南大文学部卒。
田中 信繁(たなか のぶしげ):
西田の会社のかなり「デキる」同期で、法人営業第一部係長。30歳、早大商学部卒

「カッカッカ、相変わらずだなー、西田は」。

女と会った次の日のランチ時の社内食堂。
俺は同期の田中に昨日起きたコトの顛末を話した。
ったく、ゴールデンウィークの真っ只中だってのに、「客からの急ぎの連絡があるかも知れない」からって若手は出勤せよって、罰ゲームかよ・・・。

こいつは俺と同じ新卒入社で入社7年目、新人研修の後、俺同様に本社の営業として配属された「社内でただ1人の何でも話せるヤツ」だ。

ただし、新人研修の時から
「第一志望の会社に行けなかった分、この会社で絶対にトップになる」
と同期の連中に宣言していて、俺とは人種が違うなと感じていた。
俺らの就職活動(1991年)は今の就職氷河期(1998年)と違ってまだギリで楽だったけど、田中は不運にも就職活動の時期に長期入院していた過去がある。
つまり、この会社に入るべき人間じゃなかったかもしれないわけだ。
そして、全くのヒラの俺と違って、今ではすでに俺より二階級も上、つまり主任の次の係長にまで昇進している。
休日出勤や深夜残業もバリバリこなすぐらい愛社精神と仕事への意欲は旺盛で、上司へのゴマスリもしっかりこなせる、俺から見ても会社としては「ずっといて欲しい」人材なんだろう。

「お、有線で原田真二のデビュー曲がかかってる。俺、今もファンだったりするんだけど」

「原田真二は良いとして、そのツーショットダイヤルの名前、“すぐつながる、すぐヤレる『タートルヘッド・コール』”だって?? それって日本語に直訳すれば「亀○」だろwww ホント、笑いすぎて腹が痛いわwww」
「まー、名前はいいだろ。田中よ、俺が言いたいのはさー・・・」

田中は仕事では抜群な嗅覚で先方のキーマンに喰らいついて契約を決めるが、コッチ方面の話にも旺盛な性欲ですぐに食らいつく。
・・・俺は仕事もプライベートもソコソコの人間、オマケに学歴も田中の方がずっと上だ。

「で、もう一度話を整理すると、お前はそのツーショットダイヤルにかけて、一回目でつながったその女と会ったんだろ」

会ったには会ったが、一杯1000円もするコーヒーを出す喫茶店で2000円のケーキセットを食った挙句、友達からPHSに電話がかかって急用が出来たとかで、出ていったのだ。
連絡先も聞いていないのに・・・。

「おい西田、何ボーっとしてんだよ。わかった!俺がお前の敵討ちをしてやるから、その『タートルヘッド・コール』のTEL番を教えろ!とっ捕まえて、○○○○ったるわ!」

これだよ。俺と違ってデキる人間は、「ムダ」とか「非効率」とかいう「逃げ口上」は吐かないんだよな。
ああいう言葉ってカッコは良いけど、結局は「楽して他人より良くなりたい」っていう、「虫の良い考え方」っていうのは俺みたいな人間でも分かる。
常にチャレンジングなこいつらは、俺らみたいな「お膳立てされないと出来ない」人間とは違うんだ・・・ホント、田中のような人間を見ていると自己嫌悪してしまう。

そう息巻いた田中に俺は『タートルヘッド・コール』のTEL番を教えると、田中はGW明けの役員会議向けプレゼン資料をエクセルとパワーポイントでつくるとかで、急いで社内食堂から出ていった。
何だよ「プレゼン」とか、「エクセル」「パワーポイント」とかって?
社内研修で人事の研修課の連中が「これからの営業は提案用資料や役員会議向け資料をパソコンで作れなけばダメ」とか言っていたが、俺なんかキーボード見るだけで吐き気がするんだけど。

さて、今日は内勤だから楽だけど、日中ヒマだなー。

(第7回に続く)

 

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能戸 淳

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北海道出身、金融界周辺に漂い十数年、
ですがその匂いが全く感じられないといわれます。
金融絡みの内容は書きません。中身はアラフォー関連のライフスタイル中心です。
なるべく楽しいエントリで埋め尽くしたいのですが、人間ですので辛口になることが多々あります。ご容赦をw

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